skouya’s diary

本に関するあらゆること

『細菌が人をつくる』

本書では、人間と共生しているさまざまな細菌(以下、常在細菌)についての最新研究が紹介されている。私たちに共生している常在細菌は、過食症や肥満傾向、そしてうつ病自閉症などの脳の病気にも関係しているという研究が報告されている。本書を読めば、日頃の食事と健康への意識にとどまらず、人間であるとはどういうことか、その定義すら改めて考えさせられるだろう。

 

人はみな、母親の産道を通って生まれて来るときに初めて多くの細菌に出会う。もし、あなたが帝王切開による出産により生まれてきたのであれば、そうではない人に比べて、肥満、食物アレルギー、そしてアトピー性皮膚炎の発症率が高いという(もちろんまだ議論はあるが)。本書は、新しい命を授かった方にぜひとも読んでいただきたい内容が多くある。そうでなくとも、健康に気をつかうすべての人に本書はおすすめだ。

 

自らの常在細菌を知ることはどういう意味をもつのだろう。本書によれば、私たちはおおよそ10兆個の細胞からできているが、それに比べ、体の内外に存在する細菌の細胞は100兆個もあるそうだ。私たちは細菌から多大な影響を受けている。さらに、自分の腸内細菌は他の人の腸内細菌とわずか10%しか共通していないという。つまり、細菌を知ることは自分自身を知るということに他ならないのだ。

 

細菌と脳とのあいだのさまざまな相互作用はまとめて「腸脳相関」と呼ばれている。

例えば、自閉症を患う子供たちは、そうでない子供たちと腸内細菌群衆が異なっていると報告されている。それを確かめるため、カルフォルニア大学では自閉症に似た症状を持つマウスを一から作ったそうだ。そうして、彼らは腸内細菌をベースにした劇的な治療法を作り出したという。だが、人に応用できるのはまだ先の話のようだ。

 

本書は研究だけではなく、実際に行われている最新の治療法も紹介されている。糞便移植という治療法だ。糞便移植とは、その名の通り健康な人の糞便を肛門や口から摂取するという治療法である。もちろん加工はされているだろうが、口から摂取するというのは、いささか抵抗がある人も多いかもしれない。

  

ほんの10年前までは、1人分の常在細菌をチェックしようと思ったら、100億円もかかった。しかし、現在では1万円ほどで調べることが可能だ。それほど、この分野は日進月歩で進んでいる。本書は、細菌の最新知識を得ることができ、なおかつ腸内で共存する細菌たちの大切さを感じられる一冊である。

 

 

細菌が人をつくる (TEDブックス)

細菌が人をつくる (TEDブックス)